食べ物と意識
農哲学院理事長 唖樵
私は、20年前ある出逢いから、人間にとって食事という行為が、身体だけではなく、意識にも深い影響を及ぼすことを知り、以来、食と意識に深い関心を持って参りました。
私は10年前浄土宗の僧侶としてスコットランドに渡りましたが、彼の地では10数種類の美味しい海藻を見つけ、心身の浄化に活用して大いに楽しみました。
その臨床的実験と探求の過程で、海藻とオリーブの組み合わせが大いに浄化力を発揮することに気づきました。
おりから原発事故が起こり、日本から数人の子供たちを預かった経験から、この食品が日本の子供たちに必要なことを痛感し、私はスコットランドの海藻農苑を若い研究者たちに任せ、良いオリーブを求めてスペインに渡りました。
震災後、オリーブを求めて渡ったスペインで知った生産現場。
私はスペインのオリーブ産業を見聞する内、底辺で働く労働者達(その多くはアフリカからの出稼ぎ)が、過酷な重労働にもかかわらず、低賃金の下に苦しんでいる事を知りました。
最も理想的な形は生産者(これは農園主ではなく、あくまでも直接農作業にたずさわる人々を指す)が、労働に見合った対価で直接消費者に生産物を渡す事ですが、それは生産者と消費者が隣り合わせでなければかないません。
現在、オリーブの実が余りにも安く買い叩かれ、その加工品が余りにも高く売られている原因は、流通業者の力が巨大化して、生産者や消費者が完全にその支配下に置かれてしまったからではないでしょうか。
本来の生命力を保つ本当に良いオリーブとはなんでしょう。
オリーブオイルの真価は自然に育った樹から得られたものに顕われます。オリーブの樹は、そもそも岩山や荒野に自生する植物で、強い日光と乾燥に耐えて育つのが自然体です。つまりオリーブの真価はその強い生命力にあるわけです。
しかし、増収を図って肥料、農薬、潅水を施すと、オリーブの樹は軟弱になり、本来の強い生命力を失ってしまいます。また、強い生命力を持つオリーブの樹は化学物質を吸収する力も強く、そのように栽培されたオリーブは危険であることも事実なのです。
これは他の作物にも言えることですが、良いオリーブオイルとはそうした非自然的な不純物を吸い込んでいないことが第一の条件です。
そして、更に重要なことはそれを扱う生産者や仲介者や消費者(調理者)が、どんな意識でそれを扱ったかなのですが、その理由は後述いたします。
関わる者の意識が及ぼす物質への影響は科学で立証されている。
私は、食品の味や品質において、最も影響が大きいのはそれに携わる生産者や調理者の意識であると考えております。
人の意識が、味や品質に影響を及ぼすことは、母親が作った食事を子供が美味しく頂く現象や、同じネタとシャリを使うにもかかわらず握る職人によって寿司の味が異なること、同じ条件下で作られた糠漬けが、作る人によって腐ったり美味しく発酵したりする事実について考察すれば、どなたでも理解されるのではないでしょうか。
私たちはそのことを知った20年前から、意識と食べ物の関係を実証すべく農作と調理の実践研究を続けて参りました。
そのような環境下で育てた若者が農哲学院には10名余りおりますが、全員心身共に健康で知力体力共に優れ、自然科学、芸術、スポーツの分野で優秀な成績を修めております。
曹洞宗の開祖道元禅師は宋の国に渡った時、老典座(食事係)に出逢って禅修行のヒントを得たと言われています。それで永平寺では今でも典座は寺の高位に位置づけされているわけです。古来、仏道で農作が大切な修行とされてきたのも、それが自然の声に耳を傾ける1番良い方法だったからではないでしょうか。
近年、量子物理学の研究が飛躍的に進み、物質の最小単位とみなされている量子が、観察者の意識が向うとたんに、波動状態から粒子状態に変化するという事実が、科学的に証明されたというニュースが流れました。皆様はこの実験結果をどのように受け止められるでしょうか。
私は、宗教が説いてきた釈迦やイエスの世界を、科学が証明する時代になったと受け止めております。それはある意味、人の意識が世界を創造しているという驚くべき証左でもあります。
命として捉えると見えてくる、化学物質の意識と様々な影響。
ここ50年来、人々は様々な化学物質を吸い込んだ食べ物に取り囲まれて生きてきました。
それらは科学的に害が証明されないという理由で当局から許可され続けてきましたが、今の成人病や各種アレルギー、子供から老人までの健康状態に鑑みれば、化学物質が世界に拡まる以前と以後では明らかに大差があります。
そして、何よりも大きな問題は、その影響が身体のみならず意識に大きな影響を与えているという事実です。人は誰もが嗜好性を持ち、好きな食べ物は、それが健康を害すると知っていてもなかなか止められません。身体が欲しがるというよりも、意識がそれを欲する状態です。
それは、一種の中毒症状なのですが、それが何に由来するかはまだ科学的にもハッキリして
いません。しかし、食べ物も意識の産物であり個々の食べ物には個々の意識があると考えればその理由がよく見えてきます。すなわち今まで体内に取り込んだ食べ物という意識体が強く仲間を呼ぶのが中毒症状だと考えると、納得がゆくとは思われませんか。
そもそも、化学物質も自然界から生まれた物質です。それが地中や海中や空気中に在る時は何も毒性を持たないのに、抽出、精製、加工していくに従い強い毒性を持つようになるのは何故でしょうか?
その最悪の例が放射能ですが、物質が意識であるという観点からその精製過程を考察して気づきますことは、毒性の本質は「怒りの意識」であるということです。私たち自身がウランの立場に立って考えてみれば、その乱暴な精製過程に怒りを覚えずにはいられないでしょう。
考えてみて下さい。原子を構成している原子核や電子や中性子は、人間に例えれば最も強く結びついている家族です。その周りを強力な火薬で包み込み、爆発させて無理矢理引き剥がすのが核分裂なのです。引き剥がされバラバラにされた親や子供が怒りを持つのは当然だと思いませんか?
私は若い科学者達が一日も早くこのような視点に立ち、今後の研究に取り組んで頂きたいと願っています。それは必ず世界を救う道となるはずです。
オリーブオイル産業の実状と、危険性への無関心という意識。
オリーブ油は収穫されたオリーブ果実をその日のうちに搾油しなければなりません。そのため生産地では10キロ程度ごとに搾油所が点在しています。オリーブ農家は毎日摘果したオリーブ果実を搾油所に運び、果実は粉砕され、温水を注いで撹拌され、分離器で油分を抽出されてオイルが出来上がるのです。
ところで、オリーブの果実には約20%のオイルが含まれていますが、注入する温水の温度が高ければ高いほど抽出率は高くなります。しかし高温の温水を使うと風味が落ちてしまうので、高級オイルを造る為には、コールドプレス製法といわれる25度ほどの低温低圧で抽出するのが良いのです。
こうして抽出したオイルが本来の「エクストラ・バージン・オイル」と呼ばれるべきもので、酒で云えば純米一番搾りということになります。しかしこれでは10%弱のオイルしか採れません。まだ絞りカスの中に10%弱のオイルが残っているわけです。それでこれを高温高圧下で薬品を加えて化学反応させると、残ったオイルを全部取り出す事が出来るのですが、これは、本来食用の油ではなく、「ランパンテ」と呼ばれるランプ用の油ですが、実際、化学変化を起こして悪臭があり食用に出来るものではありません。
しかし現在、日常にランプを使う家庭はありませんよね。では、この大量に生産にされているランプ用の油はどこに消えていると思いますか。
それは、再度精製加工され、無味無臭の油となって当初絞ったオイルに混ぜられているのです。これは大変危険なことなのですが、 問題はオリーブ産業に関わる誰もが、この高温下で薬品を加える危険性について無関心で、再生オイルを混ぜ合わせることに罪悪感を持っていない事です。
ですからそれは公然の秘密でありながら、誰もが異を唱えない事態を生じさせているのです。
「水増し」という言葉は、昔、欲張りな酒屋が酒に水を足して売った事から生じた言葉ですが、酒は余り水を足せば水っぽくなってバレてしまいますが、オイルの場合は両方が油ですから、たくさん混ぜても風味の強いエキストラ・バージンオイルに影響されて、よほど味覚の鋭い人でも判断が難しいのです。高額オイルに安オイルを混入することで利益は飛躍的に上がりますから、製油業者にとっても流通業者にとってもその誘惑に打ち勝つことは難しくなっています。その結果、ほとんどのオイルに不良オイルが混入されているのが実状となってしまいました。
日本でのオリーブオイルが異常に高額な原因は販売形態!?
ヨーロッパでは、最も高級なオイルでも500ml瓶が1500円以上で売られていることはまずありません。こちらでは日常的に使われている食品ですから、それ以上高額では誰も買わないからです。
それが、日本では高級品と謳うものが1本5000円~9000円の値段で売られている理由は、まず少量しか売れないからです。元々、日本ではオリーブオイルが使われていませんでした。それで大量のオイルを販売できませんから、業者は利益幅を取らなくては採算が合わず、オリーブオイルとは高級で希少価値があるもののように宣伝され、今のように歪んだ販売形態がつくられてしまったのです。
前述したように元々オリーブは果実の中に20%もの油分が含まれていて、他のオイルのように種から抽出されるものではありません。ですから搾油も簡単で豊富に採れるものなのです。事実、スペインで搾油所から大手に出荷さるオイルの平均値は、1リットル=3~5ユーロ(約600円)なのです。500ml瓶に換算すれば300円です!もちろん化粧瓶に入れ飛行便で日本に運べば500ml瓶1本が1000円以上にはなるでしょうが、実費としてはそれ以上になるものではありません。
しかしデパートやスーパーの小売店としては利益を出さなければやってゆけませんから、少量しか売れないオリーブオイルについては、5割10割の利益を含めなければ採算が取れないというのが高額になる理由なのです。
近年、日本でもオリーブオイルが身体に良い油だと知られてきて、同時に安物は危ないという知識も拡がりつつあります。それで業界では破格に高額な値札を付ける事で商品の信用度を高めてきました。これは本当に残念なことで、健康に良いオイルであればこそ、純良なモノを安く提供して子供たちの身体を守るべきではないでしょうか。
マリナレダ村との出会いから始まったあたらしい会社のカタチ。
私はそのような観点から、本当に良いオリーブオイルを探し求めました。そして、自信を持って選んだのは、アンダルシア地方にあるマリナレダという村が作るオイルです。
そこは一種の共同体で、農作業から搾油作業までを村全体で行っており、彼らは労働者であると同時に農園主でもありますので、オリーブの樹に愛情をもって作業を行っています。そして何より嬉しい事は、仕入れ価格が労働者の賃金にそのまま反映されるシステムになっていることです。
私の願いは、良質のオリーブオイルをできるだけ安く日本の親子に届ける事ですが、同時に生産する労働者の方々にも助けになる価格で買い取ることです。そのためには、流通機構が利益追求を放棄すればそれが可能です。
高く買って安く売り、利益を出さない会社・・・・
このマリナレダ村との出会いが貊村設立に向け、大きな原動力になっていきました。
オイルに携わる生産者、仲介者、消費者(同時に調理者でもあります)の良い意識が働けば、良質のオイルが更に素晴らしいオイルになることに、私は確信を持っております。
生産者が安心して良いものを生み出すせる環境作りのために。
私が「マリナレダ村」の搾油所を初めて視察したとき、工場敷地内に絞りカスの山が見当たらず、搾油機も一番搾りの機械しかありませんでした。それで一次搾油の後はどうしているのか尋ねたところ、絞りカスは二次搾油所に売っているとの事でした。設備としては二次搾油施設は費用がもっとかかります。村では資金的余裕が無くて二次搾油はせず、絞りカスを他の搾油所に売っていたのです。
それで「マリナレダ村」が年間4500トンのオリーブ果実を収穫し、その10%に当たる450トンのオイルを生産していると答えた理由が判明しました。つまり村は一番搾りのオイルだけを生産し、設備が無いため二番絞りの「ランパンテ」は生産していないのです。
それは、二番絞りのオイルが良くないという認識のせいではなく、設備投資する余裕がないという理由(そもそもスペインの人々は化学物質に対する危機意識が薄い傾向があります)からなのですが、それは私たちにとっての幸運なことでした。
「マリナレダ村」は年間450トンの混ぜ物しないオリーブオイルを生産しています。彼らは勤勉で純朴ではありますが商才がありません。
それでせっかくの混ぜモノ無しのオイルをそのまま大手業者に売っていたのです。
そして、残念ながら今まで「マリナレダ村」が生産してきたオリーブの実は完全無農薬のものではありませんでした。経済的理由もあって村の畑にはほとんど殺虫剤は撒かれてきませんでしたが、やはり肥料が足りないと収穫が減るという思い込みによって、多少の化学肥料が撒かれてきたようです。
しかし天の導きと言えましょうか、私たちが村の搾油所を訪れた時、工場長から「今50トンのオーガニックオイルがある」と言われました。彼は、今後オーガニックオイルの需要が高まると予想し、数年前から一部の畑を無農薬無肥料栽培に切り替えてオーガニックオイルを抽出したということでした。
それで早速試飲してみますと、それは香り、辛味、苦味、そしてかすかに感じる後口の甘味は素晴らしく、世界一を決めるコンテストで優勝したオイルと飲み比べてみても全く遜色ない味でした。
植物油の弊害は、精製することで不自然な命となっていること。
私はかねがね、油脂の摂り過ぎが招く成人病や子供の肥満について解決策を考えて参りました。オリーブオイルが身体に良い事は医学的にも証明されていますが、奇妙なことに本場のスペインでさえ20~30年の間に肥満者が急激に増えています。この原因は一般家庭で使われているオイルに上記のような再生オイルが含まれているからです。これはカロリーの問題ではなく、不純物が邪魔して脂肪が身体から排出されないことを示しています。
今、世界中でヒマワリ油やナタネ油といった食用油が大変安く売られていますが、私はそれが肥満のみならずホルモンの異常につながる事を危惧しています。私はその害が油本来の性質からくるものより、精製過程に問題があると思っています。推論でモノを云うとお叱りを受けるかも知れませんが、子供達の健康に関する事ですからあえて書きますが、あれほど安く作る為には、昔のように家内工業で、蒸した菜種を万力で絞るようなやり方では到底採算が合わないはずだからです。おそらくランパンテのように化学反応を利用し、油分を全て搾り取っているのでしょう。そして触媒剤を使ってあのように透き通った油を作っているのだと思います。
私が小学生だった六十年前には、農繁期になると母親が「力をつけないとね!」と言って、天ぷら鍋の中に残っている菜種油を味噌汁の中に落とし、それがなかなか美味しかったのです。どうでしょうか。今、何度も天ぷらを揚げた後の油を味噌汁に入れたらとても飲めないでしょう。これは明らかに油の質が変わった証拠です。
既存のオイル会社には申し訳ない言い分になりますが、精製過程で化学変化した油を使うことは非常に危険なことです。私は科学的な証拠がないからといって看過してはならないと考えますので敢えて警鐘を鳴らします。
良いオリーブオイルを安く日本の家庭に届けるために考えました。
オイルの流通過程で次々加算される費用の内容を検討するうちに、私は、資本主義がもたらした弊害に気づきました。物流の過程で加算される費用の中で最も大きな割合を占めるのは利益(欲望)です。もちろん人は誰でも欲を持っていますが、一方ではそれを抑制する心も持っています。
しかし、株式会社は違います。株式会社は人の心を持っていませんから、その欲望には限りがないのです。
現在世界には八億五千万人、実に9人に1人が飢餓に苦しんでいます。それは極言すれば株式会社(資本主義)というシステムが原因です。
株式会社はその成り立ちからして株主への配当が社是となります。全ての上場企業は株主に配当し続ける宿命を持っているのです。ですから会社は常に、安く、安く、更に安く買い、高く、高く、更に高く売ることに狂奔します。その結果、会社に人が追い立てられているのが現代社会の姿になってしまいました。人間社会を支える為につくった会社に人間社会が追い立てられるなんて馬鹿馬鹿しい現象です。
それで私は、利益を追求しない会社が成り立たないものかと考えました。それには既存様式の会社システムの被害者である生産者と消費者が会社の持ち主、つまり株主になれば良いと思いつきました。そしてこの考えを周囲の方々にお話しするとたちまち40名の方々が発起人に加わって下さり、思いがけず発足できたのがこの株式会社貊村です。
私は、純良なオリーブオイルを日本に届けたいと願う内にこのシステムを思いつきましたが、想い巡らせているうちに、このシステムを1万人以上の方々が理解されたら、社会が変わる可能性があると気がつきました。
これまでにも生産者や消費者を助ける目的で、フェアトレードや組合のような組織が作られてきましたが、なかなか本来の目的を達成することは難しく、運営するうちに販売する品物の価格は結局普通のマーケットと大差ないものになっております。その理由は不特定多数の人々に多種類の品物を販売する形態から抜け出ていない事に原因があると思います。
この形態ですと、たくさんの店舗、倉庫、人員が必要で、それを拡大すればするほど組織が大きくなってしまいます。そして組織は組織の常として組織自体を守ろういたします。つまり利益を求める従来の会社と全く同じ性質を持ってしまうのです。
貊村は、持ち主が生産者であり消費者です。
生産者への配当は高く買って貰える事、消費者への配当は安く売ってもらえる事です。会社の持ち主全員がそれを求めているのですから、貊村は全く利益を求める必要がありません。
貊村は、発足にあたり一切の資産を持たないと宣言いたします。
貊村の社員になられる方々はその主旨を充分理解されて立ち上がり資金を提供して下さった発起人ですから、私は1万人の株主の方々が彼らを支援して下されば、必ず社会を変えるきっかけになると信じます。
皆様にはどうかこのプロジェクトにご参加いただき、良質なオイルが日本の隅々まで届き、子供達の健康に寄与できますよう心からお願い申し上げます。
平成28年7月1日
農哲学院 理事長
あしょう